タイ中部で今月9日、首都バンコクに長期滞在していた棚橋貴秀さん(33)=岐阜県出身=の絞殺体が発見された。事件は、タイ警察が殺人容疑で日本人男性2人の逮捕状を取るなど日タイ両国で捜査中だ。なぜ、棚橋さんはバンコクで暮らし、凶行に倒れたのか。そこからは、若者の「
引きこもり」「ニート」といった日本の社会状況を映した、『
外こもり』という現象がみえてくる。(赤堀正卓、鎌田剛) ■著書出版 殺害された棚橋さんは7月、安田誠のペンネームで『
外こもりのススメ』(幻冬舎コミックス)を出版したばかりだった。 著書によると「
外こもり」とは「目的もなく海外の都市にこもってブラブラしている人」。言葉自体は5年ほど前からあったようだが、閉鎖空間で過ごす
引きこもりと違い友人と騒いだりもする。著書では「ニートに近く『外ニート』ともいえる」としている。 知人によると、棚橋さんは郵便局を10年前に退職。世界各地を放浪後、平成11年ごろバンコクで
外こもりを始めた。著書では理由を「日本社会は居心地が悪い」と説明。「几帳面(きちょうめん)な人が多く、細かい指摘をされる。周囲と違う人は排除されがち。一度レールを外れると再出発が困難…」といったことを挙げている。 物価が安いため生活費は月10万円以下。インターネットでの株式投資やFX(外為証拠金取引)などで捻出(ねんしゅつ)していたようだ。 棚橋さんにとって出版は初体験。企画した丸山貴史さんによると、棚橋さんは出版の狙いを「社会に息苦しさを感じている
引きこもりやニートに、『何カ月か日本を離れて
外こもりをしてみるのもいい』と訴えたい」と話していた。 ■情報交換 タイ警察が逮捕状を取った日本人2人のうち、大阪府出身の男(30)は、棚橋さんの隣のマンションにいた
外こもり仲間だ。 知人らの話だと、当初は貿易業などで生活をしていたが業績が振るわず、定職を持たない
外こもり状態になっていったようだ。棚橋さんとは2年前に知り合い、株式などの投資情報を交換する関係となった。
外こもりの取材などを通じ2人と面識があるフリーライターの高島昌俊さんは「2人にトラブルの話はなかったが、男が棚橋さんの運用資産を知っていた可能性がある」と語る。 資産をめぐる
外こもり仲間の嫉妬(しっと)や確執が事件を起こした可能性もありそうだ。 この男は、事件後に帰国。逮捕状が出ているもう1人の男(30)が、日本国内で棚橋さんの口座から約1000万円を引き出したとみられる。2人はいずれも日本の警察から事情を聴かれており、現在、岐阜県警がタイ警察と連絡をとって調べている。 ■1万人…
外こもりの姿を著書『日本を降りる若者たち』(講談社現代新書)で描いた旅行作家の下川裕治さんは、世界各地にこもる日本人を「バンコクを中心に約1万人」と推計する。 棚橋さんも著書で、「日本の短期労働で稼ぎタイで使うことを繰り返す」「日本で転職を繰り返すがうまくいかず渡航」といった仲間を紹介。そこからは、求人倍率悪化、正社員になれない…などの労働環境が
外こもりの一因であることがうかがえる。 最近は世界的株価低迷やインフレなどで、
外こもり環境が厳しくなっている。だが下川さんは「若者に厳しい現在の日本の雇用状況が続く限り、
外こもりは減らない。今回の事件が
外こもりだから起こったとは思わないが、図らずも
外こもりが注目されることになった」と指摘している。【関連記事】・
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